最後の一手 〜将棋最後の日〜
20××年、最後のタイトル戦が行われています。今年もまた、新聞社のスポンサーからの撤退が相次いで決まりました。心有る棋士は、次々と将棋界を去っていき、すでに今年だけで20人の棋士が去りました。
今日の対局は、T五冠王対M二冠王です。今や将棋界に残っているのはこの二人だけです。M二冠王もすでに廃業を決めたため、400年もの伝統を誇る将棋も、今日が最後の対局となります。
さあ、対局が始まりました。戦型はもちろん相穴熊です。二人は通いなれた道をすらすらと、流れるように進んで行きました。まず穴熊に潜り、銀をひきつけて四枚穴熊にし、飛車を交換するまでは誰がやっても同じです。
ここまでの消費時間は両者わずか一分です。二人はつぶやきました。「さあ、これからだね。」
今日は最後のタイトル戦ですが、二人はその感傷に浸る様子はなく、ただ黙々と埋めてははがし、はがしては埋めています。
突然、M二冠王が「アッ!」と叫びました。
寄っていたはずのT五冠王の玉ですが、角が偶然自陣に利いてきたため、攻めが偶然切れてしまったのです。M二冠王は寂しそうに言いました。
「これも将棋の限界だから仕方がないね。」
観戦記者も誰一人としていないタイトル戦でしたが、将棋の最後の瞬間を一目見ようと、多くの人が集まってきました。T五冠王は言いました。
「どうして将棋はこんなことになったんだろう?」
T五冠王のみが、将棋が衰退した理由をまったく理解していないのでありました。 (おわり)